誘惑~初めての男は彼氏の父~
 あきらめて返却レバーを引いて、十円玉を取り戻そうとした時だった。


 背後にいた誰かが、突然無言で投入口に百円玉を差し込んだ。


 「あなたは・・・」


 「好きなの選びなさい」


 「えっ」


 いつもコンビニで見かけた、あの男の人だった。


 「毎日コンビニのレジで会ってるお姉さんだね」


 彼のほうから話しかけてきた。


 「はい・・・」


 「最近毎日買い物してるんだけど、僕の顔記憶にある?」


 「はい、何となく」


 「本当? 嬉しいな」


 「常連さんの顔は、自然と覚えているものです」


 さすがに「かっこいいと思って気になっていた」とまでは言えなかった。


 ・・・若干の立ち話の後。


 「雨もひどくなってきたし、そこでお茶でもどう?」


 すぐ先にコーヒーのチェーン店があったので、誘われるがままに連れられていった。


 名も知らぬ年上の男の人に、黙ってついて行くなんて。


 いつもの私からすると、あり得ないことだった。


 なのになぜ・・・。


 ・・・。
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