誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「・・・もしかしてこういう話、苦手?」


 「別に・・・」


 私が怖がるのを楽しみに待っているような表情だったので、私は強がった。


 こんなロマンティックな月夜の浜辺を見せておいて、口説いてくるのかと予期して警戒していたのに。


 そんな素振りを見せるどころか、変な話ばかり。


 予想していたのとはかなり違う展開に、計算が立たなかった。


 その時だった。


 助手席、つまり私のすぐ近くで、ガサゴソと物音がした。


 「なっ、何でしょうか」


 「動物かな・・・?」


 和仁さんは助手席の窓へと身を乗り出して、外の様子を伺った。


 互いの熱が伝わるくらいに接近したので、私はどうしたらいいのか困った。


 「見てごらん。キツネの親子だよ」


 「え・・・」


 和仁さんが指差す方向を見てみると、路肩に確かにキツネの親子がいた。


 「こんなところにもいるんですね」


 「川とかにもたくさん住み着いているからね。浜辺も居心地いいのかな」


 そして和仁さんは再び、後部座席からカメラを取った。
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