誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「ちょっと、どこ行くんですか」


 突然和仁さんは、車から降りた。


 「キツネの親子の写真撮るから。少し待ってて」


 「そんな」


 和仁さんが車から降り、近づいたのを察知して、キツネの親子は草むらへと逃げ出した。


 草むらとはいっても、周囲の砂丘にちょびっと草が生えている程度。


 そんなキツネの親子を追いかけて、和仁さんの姿は砂丘の陰へと消えていった。


 「待ってください」


 このような所で一人待たされるのは嫌なので、追いかけようとしたけれど、迷子になったらまずいし動かずここで待っていることにした。


 「・・・」


 五分経っただろうか、それとも十分?


 和仁さんは一向に戻ってこない。


 不安になってきたので、バッグの中から携帯電話を取り出した。


 圏外じゃないかって心配だったけど、何とか圏内だった。


 和仁さんに、電話をしてみようか。


 いや、携帯電話は車内に置いていったはずだから、無意味だ。
< 97 / 433 >

この作品をシェア

pagetop