誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「和仁さん・・・?」


 念のため呼んでみた。


 当然反応はない。


 周囲に全く気配を感じない。


 どこまで行ってしまったのだろう。


 さっきあんな話を聞かされたせいか、暗い海に飲み込まれて、消えてしまったのではと思ってしまうほど・・・辺りは静寂。


 相変わらず波の音が響いてくるのみ。


 「・・・」


 急に怖くなってきた。


 まるでこの世界に、自分ひとりだけ取り残されたような感覚。


 全ての人が消え去ってしまったような・・・。


 怖い。


 果てしない闇の底に突き落とされたような。


 今までの罪の代償ともいうべき、救いようのない孤独の世界に置き去りにされたような。


 「いや・・・」


 急に身体が震え始めた。


 一人ぼっちが怖い。


 月の明りすら、私が一人であることを思い知らせるだけの意味しか持たぬ、残酷なものに感じられた。


 そして波の音は、規則的に響き続ける・・・。
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