腐女子vs芸能マネージャー
そんな修羅場を乗り越え、入稿も完了した帰り道。
「げ」
「おや?」
何か面白い雑誌(勿論BL)でもないかなと本屋に立ち寄った時の事、ふらりと通りがかった音楽雑誌のコーナーに奴がいた。
「これはこれは、近衛さん。こんにちは」
何であんたがこんな所に、なんて内心毒づきながら、にこやかなスマイルで手をぴらぴら振ってくる男に「どーも」と返事を返した。
「お買い物ですか?」
「ええ、まぁ。貴方は……」
問い掛けながら彼の手元を見れば抱えられた数冊の音楽雑誌が目に留まる。表紙は全部SAGINのメンバーが載っていた。
「仕事熱心ねー。それ全部買うの?」
「え? あぁ、ええ勿論。社の方にも見本誌は送られて来ますが、これは自宅用です」
「売上げ貢献って奴?」
ふと思った疑問を口にすれば、美月さんは「あはは」と笑い声をもらす。
「そんな単純に雑誌が読めればいいんですけどね。残念ながらそうもいかないのが僕の職業なんですよ」
ん? こいつの職業ってなんだっけ? 確かマネージャー兼電話番とかなんとか。
「こういう雑誌には新人だったり掲載常連だったりする今業界が注目する方々が載ってますから。他事務所のタレントを把握しておくのもマネージャーの仕事なんです」
「へぇ~。じゃあ可愛い子とか聞いたらすぐわかるのかしら?」
「貴女の"可愛い"は方向性が間違っていますからね。一応聞いてみましょう。例えば?」
「そんなの男受けする可愛い男の子に決まってるじゃ」
「残念ですが存じ上げませんね」
言い切る前に即答を返されあたしはチッと舌打ちする。
ほんとこいつのこーゆう淡々とした所が嫌いなのよねあたし。
「あっそう。じゃあお仕事中邪魔して悪かったわね。さ・よ・な・ら」
話すだけムカつくだけだし、と踵を返してその場を去ろうとした時。
「可愛いかはわかりませんが、貴女の好きそうなお店は知っていますよ」
その言葉にピタリと止まるあたしの足。視線だけで振り向いて「好きそうな店?」と問い返す。
「今から行くんですが、なんなら貴女も御一緒に如何です? 暇でしょどうせ」
最後の一言が余計だけど、あたしの好きそうな店ってワードに興味が惹かれるわね。それに仮にも芸能事務所に勤めてるなら目も肥えてるだろうし……。
むぅ……と答えを惑んでいるあたしに、美月さんは小首を傾げる。やや間があってから、ああ、と頭を振ると「勿論奢りますよ」と一言を足してくる。
奢りかぁ。まぁ奢りならいっか。
「じゃあちょっと買い物終わるまで待ってもらえます?」
「何かお目当てな物が?」
「今思い出したけど今日BL雑誌の新刊発売日なの。生ものDVDがついた特別版よん」
流石にこの言葉には、呆れの溜め息をもらした美月さんだった。