腐女子vs芸能マネージャー

 木目調のドアを開けば、それに続く様に鼻孔を擽った甘い匂い。そして……。


「「お帰りなさいませお嬢様、ぼっちゃま」」


 入口ホールに横並びに立つ五人のイ・ケ・メ・ン! 口を揃えて言われた゛ぼっちゃま゛の台詞にあたしは「きゃああああっ」声にならない叫び声をあげた。

 ぼっちゃま? ぼっちゃまって事はあれよね、執事×ぼっちゃまを狙ってるって事でしょ、そうなんでしょそうなんでしょ!?

 残念ながら彼等が仰々しく頭を垂れる際口にした"お嬢様"は私の耳には届いていなかったけれど。


「どうです? お好きでしょ、こう言うの」


 好きよ好きよ好きだわよ!! だって貴方イケメン集団が頭を仰々しくさげてぼっちゃまって言ってるのよ!? これに萌えなくして何に萌えろってゆーのよ!!

 ハッ、でも待てよ? 執事喫茶ってどちらかと言えば女性向けのイケメンがたっぷり揃った場所なのよ? そこに男が一人で来た(来ようとしてた)って事はもしかしてこいつ……。
 そんな期待を込めた視線を彼に投げ掛ければ


「何度もいいますが僕にそっちの気はありませんのであしからず」


 なんて返されてしまう。チッ、ほんとつまんない男ねこいつ。


「でもまぁいいわ、執事喫茶って一度来てみたかったのよぉ。神楽は純真すぎてこんな場所連れてこれないし、蘭と豊は興味ないって一蹴りだし。早く、早く入りましょ!」


 初めての執事喫茶にわくわくする気持ちを何とか抑えつつも、一人の執事くんに案内されるままついていく。

 案内されたのは窓際の、比較的明るめの席だった。白いネコ足の丸テーブルには既に二つの茶器が用意されていて"Reserves"と書かれた札が置かれていた。

 執事くん達が引いてくれた椅子に腰を降ろす。すると、赤いハードカバーのメニューを手渡される。


「僕はアールグレイをストレートで。近衛さんはどうなさいます?」

「え? あー、そうね私は……」


 パラリとメニューを捲れば横文字がズラリと並んでいて一瞬目眩を覚える。その横に小さく日本語でダージリンだのアールグレイだの何だの紅茶の銘柄が書かれていたけれど、ぶっちゃけ茶葉の違いなんてわかるわけがない。

 別に紅茶を飲んだことがないって訳じゃないんだけど、いつもいく喫茶店は店長さんが茶葉に詳しくて、飲み方によって色々勝手に選んでくれてたのよね。

 さてどうしたものか、と固まっていると……。


「近衛さんはいつも鈴音くんのお店では何をご注文なさっているんですか?」


 鈴音ってのはさっき言った行き付けのお店の店長さんの事。


「えーっと……ローズティーとかミルクティーとか?」

「今日お飲みになりたいのは?」

「う~ん……ミルクティーかしら。渋いのは苦手なのあたし」

「ではアッサムをミルクで」

「かしこまりました」

 櫻木さんの指示に、執事くんが先程の様に深々と礼をして奥へと下がっていく。

 
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