小野部長
ズボン
仕事がひと段落した高峰は、自分がいるオフィスの1つ下の階にある休憩スペースに来ていた。

コーヒーを飲みながら、ぼんやり外を見ているとにぎやかな声が聞こえてきた。

「もう、坂巻君、どうしてズボンが裂けたのさぁ。」

陽気なあの声は、いつものあの部長で、半泣きなのは、部下の坂巻か。

「だってまさかあんなところに裁断機があるだなんて思わなかったんですよぅ。
あ!高峰さん!よかった、やっぱりここだったんですね。」

ととと、と、高峰に近づくと、手に持っているソーイングセットをぐい、差し出してくる。

「お願いします。僕のズボン、かがって下さい!」

「‥‥は?」

「だって、田中さんにお願いしようとしたら、女性が皆裁縫ができると思うなってキレられちゃって‥」

眉間に皺を寄せたまま、高峰はじ、とソーイングセットを睨む。

「ほら、高峰君、器用だからさ、きっと大丈夫だよって僕が言ったんだよ。」

だからほら、かがってあげなよ、と余計な援護射撃をする部長。

「‥‥脱げ。」

「それに、ぼくこれから工場に‥‥え?」

「脱げ。履いたままじゃ縫えない。」

「え?えぇ?ここで?今?脱ぐんですか?」

「オフィスの方がいいか?」

「いいえ!でも‥。」

「大丈夫だよ、坂巻君。
ほら、ジャケットを掛けて、椅子に座っていればいいだろ?」
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