カノンの流れる喫茶店
黙り込んでしまったマスターに、私はくすりと笑う。

「マスターの優しさは、彼女さんにだけ向けなくちゃね」

その時、カラン、ランと玄関につけられた大きな鈴が鳴った。

「たっだいまぁ~♪」

と入ってきたのは、チョコ色の長い髪をひとつに結んで肩から流し、バスケットを持った女の人――マスターの彼女さんだった。

おかえり、と迎えるマスターに、彼女さんは満面の笑みで、

「うふふぅ♪」

と笑った。

見て見て、とカウンターに寄りかかって、彼女さんはバスケットの中を見せる。

「おーいしそうな生ハム売ってたの。明日はこれで、サンドメニューにしましょ♪」

その目がするり、私へ落ちた。正確には、私の手の内へ。

「うわこれっ、すっごいねぇ!」

と、彼女さんは手を打つ。

「やっと形になったんだ。すっごいねぇ♪」

そして私にも、すっごいよねぇ? と笑顔で訊いてくる。

私は、いろんな、いろんな意味で、はい、と頷いた。
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