カノンの流れる喫茶店
曲はいつのまにか、カノンに戻っていた。

バスケットを抱えた彼女さんが、店の奥へ消えていく。

私はバッグから財布を取り出し、お会計を頼んだ。

ところが、

「お代、もうもらってるんだよ」

とマスター。

「さっきの彼がね、先払いしてたんだよ」

「え?」

「釣りは要らないって、一万円ね」

「……そうですか」

ひょっとして、手切れ金……みたいなものなんだろうか。

苦笑してしまった私に、マスターが言う。

「僕なら……こんなお釣り残したくないんだよね。――君、彼に届けてくれないかな」

「ぇ……」

「頼むよ」

そして渡されたのは、9325円と、

「それと、これは彼の忘れ物ね。まあ、届けるかどうかは、君次第だよ」

四つ折りにされた、一枚の紙。

開くとそこには、『カーテンの中で待ってる』とあった。
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