野球してる君が大好きです。
「……のか」

誰かの声がする。


「帆乃香!‼︎」
胡桃の声だ。

私はそっと目を開けた。


「よかった、無事で‼︎」
「……ぇ…?」
「あのままずっと目を開けてなかったから‼︎心配したよ……」
「ごめんね…」
「ほんと、よかった‼︎」
「すみません、心配かけて…」

私は結城を探した。


「陽斗、早く入れ。目が覚めたぞ」
「本当ですか⁉︎」

翔太先輩に声をかけられ
結城は中に入ってきた。
そして私を抱きしめた。


「ゎ……」
「…よかった……っ」

なんでそんなに泣きそうな声をするの?


「よかった、無事で…」
「…助けてくれて…ありがと」
「執事のつとめですから…」


結城は泣きながら笑った。

その顔がなぜか悲しく見えたのは
錯覚なのか。


「帆乃香も目覚めたことだし、そろそろ帰りますか」
「そうだな‼︎」


そう言ってみんなは片付けを始める。

私も片付けを手伝った。
足は痛いままだけど。



___片付けも終了して。


荷物は男子が持ってくれた。


でも、結城は何も持っていない。


「じゃあ、戻りましょうか」
「そうだな」

翔太先輩たちは先に別荘に向かう。


私たちは少しだけ浜辺に残った。



「すぐに気づけなくてすみませんでした」
「…あの時。助けに来てくれなかったら…私、死んでたかもしれないね」

そんな冗談を言っても
陽斗は何も言わなかった。

まるで、自分のせいであんなことになってしまったと、結城自身を責めているかのように。


「結城がいなかったら。私は多分…もっと違う人生を送ってたと思う」


大好きな人がいたからこそ
今の自分があるわけで。


「それは、私もでございますよ…」
「そっか…」


私は結城から少し離れた。
これ以上は近くにいてはいけない。
そう思ってしまって、
彼の近くで、
隣で歩くことができなかった。


「お嬢様の好いている方は…。どのような方なのですか?」

いきなり質問をされた。


「……野球少年」

野球少年。
結城のそのままを表す言葉。

野球だけに神経を集中する
試合になると
今まで見てきた
いつもの結城とは違うのだ。

ギャップがすごい。


「そうなんですか……」
「えぇ。結城は?どんな子なの?」

こんなこと聞きたくなかった。
でも、聞いておかないと、
彼の幸せを応援できない。


「そうですね…。我儘で、意地っ張りで負けず嫌いで。でも、優しく和やかでおしとやかで、清楚で。笑顔が素敵な女性です」

女性だから……
年上という解釈になる。

私の中では。


「そか。がんばってね、応援してるわ」

私はそう言って彼より早く歩く。


彼にばれたくなかった。
涙を流していることも、
本当は応援できないことも。


「早く別荘に戻ろ!みんなが待ってる」
私はそう言って走って行く。

足が痛い。
心も痛い。











「結城のばか…」
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