キミとネコとひなたぼっこと。~クールな彼の猫可愛がり方法~
~喪失
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楽あれば苦あり。
この言葉を考えた人はすごいと思う。
……人生、楽しいことばかりじゃない。
いつもの平日。
午後になって訪れるお客さんが少なくなった頃だった。
私はいつものように、初めて薬局を訪れたお客さまに問診票を書いてもらい、それを元にヒアリングを始める。
初めての方には日頃お薬を服用しているかなど確認することがたくさんあるのだ。
「問診票の記入、ありがとうございます。少しお聞きしたいことがあるんですがよろしいですか?」
「……あなた、薬剤師さん?」
「あ、いえ」
「やだ、薬剤師さんじゃないの?じゃあ、薬剤師さん出してくれない?」
「確認だけですので、私の方で……」
「ちゃんとした方に聞いていただきたいわ」
女性のお客さまにヒアリングをしようとした時に、そんなことを言われてしまった。
ヒアリングをして必要であれば薬剤師さんを呼ぶこともあるんだけど、通常、聞き取りや簡単な注意点の説明などは事務の仕事だ。
でもお客さまは薬剤師に聞いてもらいたいと求めてきたのだ。
きっとこの様子だと何を言っても「薬剤師を出して欲しい」の一点張りでくるだろうし、変にお客さまのご機嫌を損ねるのも好ましくない。
今はタイミングよくお客さまも少ないから薬剤師さんにも了承してもらえるだろうと予想した私は、薬剤師さんに対応をお願いすることにした。
「わかりました。では少々お待ちください」
心の中で思っていることを表情に出さないように、お客さまに笑顔で声をかけ、私は薬剤師さんの元に向かう。
お客さまに背を向けた途端、ため息が出そうになってしまったけど、なんとか堪えた。
確かに薬の知識は薬剤師さんには敵わないし、お客さまに薬の説明をすることできないとは言え、ヒアリングをすべき内容などはしっかりと把握している自信はある。
でも、お客さまから見れば、薬剤師でなければ信用できないと思う人もきっといて、こういう風に言われるのは仕方のないことなのかもしれない。
……悔しいけど……仕方ないよ。
私はそんな気持ちを抑え、薬剤師さんに事情を説明した後、いつものように仕事を続けた。
……この日は午前中から何かとお客さんからのあたりが強くて、仕事が終わる頃には私はすっかり疲れ果ててしまっていた。