囚われる心と体
囚われる心と体
「石原さん。これ今日中に処理してくれる?」
周りの女性陣が騒ぎ立てるのをものともせず本人は至って冷静そのものだ。
マーケティング部主任 沢井卓人 29歳。
通称 腹黒王子(私が勝手につけたあだ名)
185㎝ある身長に女を魅了する甘いマスク。水泳で鍛えた逆三角形の体型さえも武器にしてしまう男。
しかし私はこの男が嫌いだ。出来すぎてる甘いマスクと爽やかな笑顔には胡散臭さが溢れてるし、そしてちょくちょく経理部にやって来ては急ぎの処理を持ち込んでくる厄介な男なのだ。
「申し訳ありません。本日の締めは終わってます」
「そこをなんとか頼むよ」
「無理です。明日の処理に回しますので振込は金曜日になります」
「石原さんには参ったなぁ。まぁ仕方ないか。じゃ、ヨロシク」
私がちらっと目線を上にあげれば、私を見下ろす顔はいつもの黒い微笑み。途端に身震いをして慌てて彼から目線を外した。
彼が笑顔を振り撒き経理部を出て行った後にはいつものように私への非難と中傷が渦巻いた。
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