微熱で溶ける恋心
マーメードラウンジ


「いらっしゃいませ~」


遠くから聞こえるパートさんの声に合わせ私も反射で決まり文句を言い、


「お客様、ご注文・・・」


顔を上げ、その人を確認すると威勢と愛想の良かった顔が歪んだ。




「何だよ。」


目の前の男性はあからさまに不機嫌になり、その光景を見てパートさんがクスクス笑っている。


全く、離れてるからバレないって思って。


見せ物じゃないっつーの。


「別に。逸平か、って思っただけ。」


「客に対して失礼だなぁ。」


彼、蔵原逸平は苦笑いを浮かべる。




「昔のように可愛らしく『ご注文は?』とか言えねぇのかよ」


「別料金になりますね」


「クソだな」


遠慮無く吐き捨てる言葉とは不釣り合いな、小綺麗なスーツを身に纏う。


そう、彼の職業はホテルスタッフ。


その中でも宴会場や結婚式場の指揮を執るチーフだ。




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