微熱で溶ける恋心
マーメードラウンジ
「いらっしゃいませ~」
遠くから聞こえるパートさんの声に合わせ私も反射で決まり文句を言い、
「お客様、ご注文・・・」
顔を上げ、その人を確認すると威勢と愛想の良かった顔が歪んだ。
「何だよ。」
目の前の男性はあからさまに不機嫌になり、その光景を見てパートさんがクスクス笑っている。
全く、離れてるからバレないって思って。
見せ物じゃないっつーの。
「別に。逸平か、って思っただけ。」
「客に対して失礼だなぁ。」
彼、蔵原逸平は苦笑いを浮かべる。
「昔のように可愛らしく『ご注文は?』とか言えねぇのかよ」
「別料金になりますね」
「クソだな」
遠慮無く吐き捨てる言葉とは不釣り合いな、小綺麗なスーツを身に纏う。
そう、彼の職業はホテルスタッフ。
その中でも宴会場や結婚式場の指揮を執るチーフだ。
< 1 / 41 >