微熱で溶ける恋心
逸平はそのままの距離で溜息を吐き、
「・・・ダメ?」
普段からは想像も付かないくらい甘えた瞳で迫るけど、
「ダメ」
私だって譲れない。
「・・・分かったよ」
私の髪を一撫でし、元の場所へと戻り、
「・・・俺が言いたいから言うだけだけどさ、」
そう、前置きをして喋り出す。
「彼女、ただの顔見知り程度だったんだけど、その日偶然エレベーターで一緒になって、聞いたらその日でここやめるって言うから」
じゃあ最後に一緒に食べようか、ご馳走するよって言っただけだよ、と眉を下げる。
「別に好きでも何でも無いし、連絡先も知らないから」
「・・・そうなんだ」
素っ気ない返事をした、というかそれしか私に出来ることはない。
そんな私の心情を全て分かってるかのように微笑んだ彼は、
「焦って悪かったよ」
ご馳走様、といつものように席を立った、までは一緒だったが。
最後にポツリ、呟いた。
「いい加減、少しは踏み込ませてよ」