微熱で溶ける恋心
逸平はその日のギャラの担当を後輩に投げ、病院に向かった。
が、手術室から出てきた社長はもう、彼に微笑むことはなかった。
お互い、突然、信頼していて大好きだった偉大な人を失ったショックは大きかった。
葬儀の日、逸平は休みを取り、私はクライアントに頼み込んで食堂を閉鎖した。
私だけではなく、パートさんも出席したいという思いが強く、営業が出来ないと判断したためだ。
社会人になる時に、と大枚はたいて買ったその黒い服は、今まで一度も着ることなくクローゼットの最奥にしまってあった。
(よりによって・・・)
彼がはじめてとは何とも皮肉。
ただ、日本人ではない(日本人以上に日本人ぽかったけれど)彼が、日本の形式的な葬儀をした、というのは最後まで彼らしく、
また、理解を示してくれ、改めてお別れを言う場を提供してくれた彼の家族には本当に感謝している。
とにかく、ここで彼は3人目の社長で、今は4人目と仕事をしているが、群を抜いて素敵な社長だった。