微熱で溶ける恋心
彼が口を開こうとしたその瞬間、するりとその束縛から抜け出し、
「仕事しなきゃ」
再度行くね、と告げた。
逸平は本当に良く出来た男だ。
何も言ってないけど、この一連の出来事全て無かったことにして、翌日も何も変わらず接してくれた。
そう、あの日は酔った勢いみたいなもんだ。
お互い寂しくて体温を共有してしまっただけ。
大好きな人を急に失って、行為に走ってしまっただけ。
逸平が側にいるのに安心して、色々口走ってしまっただけだ。
けれど、本当にサイテーなことをした自覚はあるし、
自分から誘った癖に、逸平を拒絶したのは私だ。
それでも、逸平が見せた愛おしい、切ない、甘い表情が今でも忘れられない。
だから、あの表情を和服の似合うあの子に見せていたのかと思って、少し焦った。
ただ、それだけのこと。