微熱で溶ける恋心
「じゃあ、ね」
カウンターの隅に置かれたコーヒーサーバー。
アイスやジュースが詰まっていたケース。
赴任して間もない頃に必死になって作った飾り。
全てがなくなり殺風景の空間で、私は最後の仕事を終えようとしていた。
「お前の食堂、好きだったよ」
「ありがとう。私も逸平の仕事姿、好きだった」
だから、いいホテルマンになってね。
いつまでも格好いい逸平でいてね。
それを私の口から言うのは酷だったので留めたけど。
もう連絡はしない。
会うことも無いだろう。
最後はニッコリ笑って、少し戸惑う彼の顔を目に焼き付けた。