微熱で溶ける恋心
ここのオーナーは今年で3年目。
前にいた某新聞社の社員食堂から異動してきた時、この人は押さえといて、と総務のクライアントから紹介されたのが彼だった。
「はじめまして。料飲部門、宴会場管理主任をしています蔵原です。」
逸平は、このホテルで最初に出会ったサービススタッフだった。
きちんとした服装、ピンと伸びた背筋、美しいお辞儀。
厳しい教育を受けてきた人なのだろうな、と瞬時に思った。
そしてその甘いマスクと爽やかな笑顔。
全てが完璧で、正直、「かっこいい」と思った。
だけど、それは昔の話。
すぐに親しくなり、親しさは馴れ馴れしさに変わり、今に至る。
「はぁ・・・」
何度目か分からない溜息を吐いたタイミングで、
「蔵原くん、何だって?」
先程まで笑っていたパートさんが近寄ってきた。
「ギャラ1やっぱ終わらないって」
「やっぱり?」
「でも何とか営業時間内にヘルプさん食事来れるよう頑張って回すって」
そう言うと、彼女はまたあの時のようにクスクス笑った。