彼のヒーローヴォイス
○約束
15歳
「怜、今度のお前のヒーローはどんなキャラだ?」
「んと、【走れ翔ける】の大谷翔よ、
決めゼリフがまたカッコいいの!
純一、またマネしてみてよ」
「おぅ、オレもそのアニメ見てるぜ、
じゃぁ、やってみる」
そう言って純一は、呼吸を整え
大谷翔のセリフを言う。
「『オレのシュートは誰にも止められねぇぜ!』
こんな感じか?」
マネし終えた純一は、私に得意げな顔を向ける
「うんうん!!すごいすごい!
純一、絶対に声優になれるよ!!」
「おぅ!もちろんなるよ! 怜だって
アイドル声優目指してンだろ?
2人で、絶対に声優なるんだからな!
ほら!」
そう言うと、純一は右手の小指を立てて
私の目の前に差し出した。
「あ…」
差し出された小指を見つめるだけで、私の右手は下げたまま。
純一は、きっとなれる、ううん、絶対。
でも…私は…。
代々続く家の総合病院を継ぐことを小さなころから言われ続けてる。
もちろん、そのことは純一も幼なじみだから知ってる。
でも、純一は私にいつも言う。
“怜の人生は怜のものだからあきらめちゃダメだ”
って。、
「ほら…」
私の心の中を読んだのか、純一の左手が私の右手を掴み、私の小指を純一の小指が絡んだ。
戸惑う私に、純一の顔が耳元に近づいて…
「約束だからな…」
耳もとで、純一の吐息とともに囁かれた言葉に、私は頷くことしかできなかった。
――――― それが、
中学2年の夏休みを控えた放課後の教室での出来事だった ―――――。