彼のヒーローヴォイス
18歳
碧葉学園に入学して、2年目の秋―――。
学園祭で発表する演劇部の練習が終わり、部室で着替えを済ませ、鞄を持った時だった。
鞄の中のスマホが振動した。振動音が長いから、メールではないみたい。
鞄の中からスマホを取り出し、ディスプレイを見ると、純一からだった。
「もしもしっ!」
『ぷっ…なんだよ、なに慌ててんだよっ』
「べ、別にっ…」
そうは言ってみたものの、3週間ぶりに聞く純一の声に頬が緩む。
他の部員たちが、ニヤニヤした顔を向け、部室を出ていく。
部長の泉希なんて、肘で脇腹をつつくから、変な声がでてしまった。
『怜、お前ナニやってんだっ?』
「な、なんでもないよ、み、みんながちょっかい出してくるだけだよ。 そんなことより、純一、どうしたの?」
『あ、あぁ、オレ東高の推薦決まったんだ。 今度の日曜、面接行ってくる』
「東高っ!? 確か、東高も演劇部あったんじゃない?」
『あぁ、オレを誰だと思ってた? 東高も演劇コンクール参加してるだろ?』
スマホの向こうの純一のドヤ顔が目に浮かぶ。
「うん!! じゃぁ、来年のコンクールで会えるねっ!」
嬉しい…ホント、その言葉だけ。
「あ、ね、ね、学園祭見に来てくれるんでしょ?」
『おう、ちゃんと開けてあるからな、お前、舞台でコケんなよ』
「もうー そんなヘマ、するわけないでしょっ!」
練習で心身疲れていた時に聞く純一の声で、一気にそれは吹き飛んだ。
学園祭まであと2週間。
その学園祭で、私の将来に関する出来事が起こるなんて、思ってもみなかった――――。