彼のヒーローヴォイス
学園祭当日―――――。
登校してすぐ、部室で衣裳のチェックを済ませ、この日のために何度も練習した台本を手に取る。
演目は、【ロミオとジュリエット 現代版】
ロミオとジュリエットの子孫が、
再び出会い周囲に反対されながら10年以上の紆余曲折を経てようやく結ばれる内容。
有難いことに、主役のジュリエットを演らせてもらえる。
緊張もあってか、
実は、昨日、どうしてもうまくいかない場面があって、
純一に電話をして練習に付き合ってもらっちゃった。
終わったのは日付が変わった頃だったから、純一、寝不足だったろうな…。
そんなことを思い出し、自分に気合いを入れた。
「よしっ…もう、大丈夫っ」
「何が大丈夫なの?」
考え事に集中していたせいか、誰かが部室に入ってきたことさえわからなかった。
「み、泉希っ」
クラスは違うけれど、どんな時も冷静で的確な判断をする部長の坂本泉希が、私のうしろに立っていた。
「あ、うん、気にしないで、ちょっと気合い入れてたの」
「そう、主役だからって、そんなに緊張することないよ、いつもの練習だと思って。」
泉希は今回、演出と総監督で表に出ないからなぁ…
「私の演出、完璧だから、大丈夫。怜は、誰もが羨む素敵なジュリエットになってるわ、うん」
私の肩をポンと叩いて、得意げな表情を向けた。
「そうよね、今日のためにみんな頑張ったんだものね」
「さ、そろそろみんな舞台に集まってるだろうから、行こう」
「うん」
部室を出る泉希に続き私も舞台へと向かった。