彼のヒーローヴォイス
二週間後の日曜、母と事務所へ行った。
「怜 本当にココなの?」
不安そうに都会の高いビルを見上げる母。
「うん、確かにそうみたいだよ」
ビルの入り口にある階ごとに会社名が書いてある案内板を指差し、母に伝える。
『㈱スイートドリーム』は、30階のフロアのうち15~20階を占めているようだ。
「とりあえず、行こうよ、約束の時間に遅れるのはよくないからね」
スマホの時間を確認すると予定時間の10分まえだったので、母を促しエレベーターに乗った。
15階のフロアまでは、数十秒という速さで着いた。
フロアに足を踏み入れると、フワッとした感触のじゅうたん。
靴音までも消してしまう。
こんなじゅうたんの感触はじめてかも…。
数メートル廊下を歩き、事務所への入り口のドアをノックした。
ドアが開かれると、薄いピンクの事務服に身を包んだ20代くらいのキレイなおねぇさんが出迎えてくれた。
「あ、こんにちは 専務さんとお約束している香坂です」
緊張しながらも、おねえさんに挨拶をした。
「はい、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
営業用の笑顔を向け、私たちを中へと促す。
それにしても、めっちゃ細い! 足もキレイで長い…。
女の私でも、ジッと見つめてしまうくらい。
事務所の中は、5~6人の男性と女性が電話をしたり、パソコンに向かったり忙しくしていた。
その横を通りながら奥の部屋まで通された。
おねえさんが、そのフロアでは別格であろう部屋のドアをノックすると
聞き覚えのある声がし、ドアが開いた。
「いらっしゃい、怜ちゃん お母様もようこそ」
ネイビーに白のラインが入ったジャケットと白のタイトスカート、襟元には薄いブルーのスカーフをCA巻きした専務が迎えてくれた。
あ、相変わらずゴージャス…。