彼のヒーローヴォイス
私には、2つ上の姉と純一より1つ下の弟がいる。
すでに姉は、大学に医学部のある付属の高校に進学してる。
弟も、医者になるつもりで、有名進学塾へ小学生の頃から通っている。
香坂家の3人の子供のうち、2人医者になると言ってるんだから、いいかげん私のことは放っておいてほしい。
夏休みに入り、進路のことで毎日両親とケンカ…。
その度に純一に愚痴のメールや電話。それでも純一は、私のことを慰め、支えてくれる。
私には、純一がいてくれる、純一との“約束”がある。
それだけが、私の中の希望。
それなのに、その希望を砕くかのような出来事が私を待っていた…。
秋風が肌に気持ちがいい晴れた土曜日の午後のことだった。
「怜、この中の資料、よく読んでおきなさい」
診療を終え、リビングに入ってきた父が、白い厚みのある封筒を私に差し出した。
受け取った私は、封筒の表に書いてある文字に…息を飲んだ。
「ちょっ、お父さん! この高校には行かない!って何度も言ったでしょ?!
私は、普通の高校に行くの! こんな私立の全寮制の高校なんて、行きたくないっ!
私の夢を奪わないで!」
脱いだ白衣を母に手渡し、厳しい顔をこちらに向ける父。
「養われてる者に選ぶ権利はない! 資料、よく読んでおくように!」
私の意見など耳に入らず、リビングを出ていく父の背中を睨むしか出来ない自分の無力さに、涙がこぼれた。
「…っ…うっ…」
その場を動くことが出来ず、流れる涙を拭うわけでもなく立ったまま、リビングのドアを見つめる私の肩に
温かな手が触れた。
「怜…」
「お母さん…なんで…?こんなの、違う…」
私の言葉に応えることなく、ただただ、温かい手で、私の背中をさすっていてくれた。