彼のヒーローヴォイス
中に案内され、足を踏み入れると、まず、大きな窓が目に飛び込んできて、とても解放感のある広々とした部屋だった。
ソファは、クリーム色の皮張りで、高校生の私でも一目で高級だとわかる。
「ほらほら、突っ立ってないで、どうぞ座って」
異空間に来たような気分で少し緊張気味になってると、専務さんが私の腕を引いた。
「あ、はい おじゃまします…」
「ふふ、怜ちゃん、ってば、キンチョーしてるのかしら?」
「あ…いぇ…」
心の中を見透かされた…なんだか、田舎者まるだしだわ…。
続いて母も私の隣に座り、テーブルを挟んだ向かいには専務さん、そして荒井マネージャが座った。
荒井マネージャーが、A4のファイルから、何枚かパソコンで打たれた書類を出し、
私たちの方を向けて、テーブルに置き、一枚一枚、説明をしてくれた。
契約書、会社の規約、レッスンの内容、スケジュール、事細かに説明をし
私や母が質問をした場合でも、きちんとわかりやすく応えてくれた。
「と、いうワケで…。娘さんを私たちに預けてくださいませんか?
もちろん、今は高校生ですので、学業に影響がないようにします。」
母も、専務さんとマネージャーさんへの警戒心は徐々に溶けたようで、来た時とはずいぶんと違う表情になっていた。
「お母さん…。私、挑戦してみたい。こんなチャンス二度とないかもしれないもの。」
隣の母は、私の顔を見つめ、小刻みに頷く。
「きちんとした会社というのは、専務さん、マネージャーさんの説明と熱意で十分に伝わりました。
ただ…。
問題なのは、本来ならば、保護者である主人がこちらに伺えていない状態です。
契約書には、保護者の了承が必要となってますから、
すぐには、書類をお渡しできないのですが…。
もともと、主人は、こういった世界には反対の人間ですから、時間が必要だと思います。
そこをご理解いただけますか?」
「もちろんです。大切な娘さんを預からせていただくことになるのですから
十分ご理解いただいてからのお返事で結構です。良いお返事を期待しておりますね。」
その日は、説明された書類と、契約書の入ったファイルを受け取り
それで終わった。