彼のヒーローヴォイス

トゥルルルトゥルルル……


机の上の内線電話が鳴った。


あ… ピンときた私は時計を見ると…レッスンの時間が5分過ぎていた。
うわ…こりゃ、ミナ先生だ…。
そう思った私は、トモに電話出てと、目で指図した。


たぶんトモも内線の向こうの相手がミナ先生だと察しがついていたのだろう。
女の先生には、やっぱりオトコのトモが出るのがイチバンだ。


受話器を取ったトモは、


「先生、スミマセン、怜の大学の講義が長引いたみたいでやっと3人集まったところなので、今すぐ上に上がります!」


え…? 原因わたしかい?


「行くぞー」


受話器を置いたトモは、片方の口元を少しあげながらチラリと私を見て事務所のドアを開けた。

もーっ トモのやつぅー


「怜ちゃん、いこー」


トモの後ろをチョコチョコとリスのように付いていくリナのうしろを、
ため息をついてから、私も事務所を出た。


レッスン室へ行くと、ミナ先生は機嫌悪い様子もなく、
所定の位置に私たちを付かせるとオーディオのスイッチを入れ、
音楽を流しストレッチから入り、昨日の復習のダンスを私たちにさせ、みっちり1時間のレッスンを終えた。


3人とも全身汗びっしょりで、タオルで汗を拭いたり、
水分を摂ったりして、15分の休憩が瞬く間に終わってしまった。


次に入ってきたのは、ボイストレーニングのユキ先生。
名前は女の人みたいだけど、紀之という立派な男のお名前。
専務や荒井さんの昔からの友達だそう。

ボイストレーニングは、腹筋使うから、私もリナも女のクセに6パックが少し出来始めている。
トモなんて、完璧6パックだ。


はぁ…こんなんじゃ、純一に引かれそう…。
ボイトレが終わった後
更衣室でTシャツを脱いだ体を鏡に映して、ため息をついた…


厳しい2人の先生に絞られて、事務所を出たのは23時を過ぎていた。
アパートまでは、歩いて10分ほど。
まだ時折寒い4月の夜風が火照った体には心地よかった。
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