彼のヒーローヴォイス

急展開を迎えたのは、天気予報が6月の梅雨入りを告げた頃だった。


「ちょっと、予定より早いけど、7月野外サマーフェスでお前たちデビューすることになったから」


いつものように、レッスンの前に3人で事務所でまったりしてると、荒井さんが事務所のドアを開けたと同時に私たちに言った。


「「「えっ…?」」」



ドアの前に立つ荒井さんを?モードで私たち3人は見つめた。



「おいおいおい、何固まってんだぁ? デビューだぞ、デビュー! 嬉しくないのかぁ?」


3人でそれぞれお互いの顔を確認しあい、頷いて再び荒井さんを見た。



「マジすかっ?!」「ホントにっ?!」「夢じゃないよね?」



それぞれ思ったことを口に出した。



「ったーくっ、そんな信用ねぇのかぁ? ほれっ! コレ見ろ!」


荒井さんが手にしていたチラシを私たちに向けた。

それは、荒井さんが言う、サマーフェスのチラシ。


名だたるアーティストの名前が連なる下の方に私たちのユニット名『TR2』が載っていた。

嘘ではないことを確認した私たちは荒井さんを囲んで飛び上がりながら喜んだ。


レッスンが終わってアパートへ帰った私は、純一に連絡しようと思い、
リビングの椅子に座る間もなく、すぐに鞄からスマホを取り出す。


すると、着信のランプが点滅してるのに気付いた。


「なんだろう…」


パスワードを入力して、画面をスライドさせ確認すると純一からの着信だった。

すぐに純一へ電話をかけた。


今年の冬から、夜間の部の声優養成所に通いだしていた純一も忙しかったから
こうやって電話するのもとても久しぶりだった。
< 25 / 71 >

この作品をシェア

pagetop