彼のヒーローヴォイス
コール7回目、出なければ純一のスマホは、次のコールで留守電に切り替わるから、メッセージ入れよう、と思ったところにコール音が途切れた。
『おう! 怜、久しぶりだな』
いつもの純一の声だ。嬉しくなって頬が緩む。
「うん、久しぶりだね! 電話アリガト、私、報告したいことあって電話しようと思ったら
純一の着信あったから、驚いたよ、なんだったの?」
『あぁ、とりあえずは報告だけ、って思ってさ、怜、少女漫画読んでたよな?『流れ星に…』って漫画知ってるか?』
「うん、 原作はケータイ小説家で、漫画の方は現役大学生が描いてる漫画だよ、それがどうかしたの?」
『あー たいしたコトねぇんだけどさ、それのドラマCDが発売になるんだけど、』
「えぇっ!! もしかして、純一出るのぉっ?!」
思わず声が大きくなってしまう。
『ちょ、声がデカいぞ! 出る、っつってもその他大勢のガヤみたいなもんだし、オレだけのセリフも一言くらいしかねぇし、CDに入るかどうかもわかんねぇし…』
珍しく、純一が弱気?になってる…
「でもでも、アフレコさせてもらえるくらいになったんだから! すごいことだよっ!
じゃ、じゃぁ、純一のアフレコ現場、見に行ってもいいの?」
ずっと前に純一とした約束を聞いてみる。
『あ、いや、それは…まだ、ちょっと…。』
「え、そうなの? なんだ、残念… でも、なんで?」
せっかくの声優デビュー、生で聞きたいのに…。
『うん…やっぱ、ちゃんとした役とセリフで、怜に見てもらいたいからさ…。』
スマホからの声しか聞こえないけど、純一の真剣な思いが伝わってきた。
「うん、わかった! じゃぁ、その時まで楽しみにしてるねっ!!」
『おう! それより、怜の報告って? もしかして、大学とレッスンの両立でヘタってんじゃね?』
「やーねー 私を誰だと思ってんのぅー? よぉーく聞きなさいよー
今度ぉ、7月の野外サマーフェスで、なーんっと! デビューすることになりましたぁっ!!
パチパチパチパチー」
スマホを持ってるから、口で拍手をしてみる。
『………。』
あれ…? 何? なにも聞こえないな、電話切れた?