彼のヒーローヴォイス
「…? ~ぃ? れーぃ? おい? 怜?!」
リビングのすぐ隣の寝室のベッドの上で、枕を抱きながら座っていた私を、開けられた寝室の戸に凭れて、不思議そうな顔の純一にようやく気付いた。
「あ、ご、ごめんっ なんだっけ?」
「なんだっけ、じゃねぇよ、怜、大丈夫か? ロケで疲れたんじゃないのか?」
心配そうに純一がベッドに近づいてくる。
「あ、だ、大丈夫だってばっ、そうだ! お土産、沖縄のお土産渡すから、そっち行こう!」
不安げな顔を見られたくなくて、純一の体をリビングの方へ向け、背中を押した。
沖縄ロケの話と、お互いの仕事の近況と、久しぶりに話が盛り上がった。
ふと、時計を見ると24時を回っていた。
「あ、オレ、そろそろ帰るわ、土産ありがとな」
ソファから立ち上がり、琉球ガラスのグラスが入った紙袋をひょい、と軽く持ち上げ、
玄関へと向かう純一。
あ…
ダメ…
待って…
私は、純一の背中を追いかけ、靴を履こうとした純一の腰に手を回した…。
「待って… 行かないで… 帰っちゃ…ヤダ… 朝まで、一緒にいて…」
言っちゃいけなかったのかもしれない…
でも、私の心は限界だった…
「怜…」
私が回した腕に、純一の手が重なった。
「怜…? 今は…止めておこう…
怜は、今、大事な時期だろ? オレなんかにかまってたら、デビュー出来なくなるぞ…
夢だって…夢だって…叶え…られなくなるかも…だぞ…」
純一の背中に頬を当てているとわかる、純一の声が震えてる…
きっと、苦しそうな表情をしてるはず…
「デビューだって、夢だって、いつになっても叶えられるよ! 今は、今は、純一と一緒にいたいの!
傍にいたいの! なんで? なんで、私の気持ち、わかってくれないのっ?!」
堪えきれず、腰に回した腕を外し、純一の前にまわった。
「純一…」
頭ひとつ以上、私より高い純一を見上げた時…
ふわり、と全身を純一の腕で包まれた。
「ゴメン…怜…」
そして、私を包んでいた腕を外し、玄関のドアを開け、帰って行った…。