彼のヒーローヴォイス
トモがドアを閉めたあと、しばらく起き上がれなかった。
だけど、今、この場にいたくなくて、トモに掴まれて軽い打ち身な状態になった腕や肩を庇いながら
バスルームへとゆっくりと向かった。
初めてのことで、大事な部分も含め、体も心も全てが痛い。
痛みを忘れたくて、全てを洗い流したい気持ちでいっぱいで、
泡をたくさん立てたボディスポンジで、
傷がついてしまうかの強さでゴシゴシと洗い、熱めのシャワーで、何度も洗い流した。
本当は、荒井さんたちとわたしたちは翌日にこの街を出る予定だったけれど、
すぐに出ていきたくて、スーツケースに荷物を押し込み、
急いでエレベーターに乗り
チェックアウトをして、ホテルを出た。
その後、どうやってアパートへ戻ったのか、自分でも記憶が曖昧だった。
そのまま、寝室のベッドにもぐりこみ、声を押し殺して泣いた。
翌日の夜からレッスンだったけれど、もうそんなのはどうでもよかった。
スマホの呼び出し音が何度か鳴ったようだったけど、それも無視をした。
部屋のカーテンを閉め切って、起きても寝ても涙は止まらなくて…
このままいなくなってしまいたい気持ちに駆られてた。
ピンポーン♪
ピンポーン♪
「んー ウルサイなぁ…」
ピンポーン♪
何度も鳴らさないでよ、もぉ…
起き上がろうとしたけど、体が重くて起き上がれない
ドンドン
「怜! いるんだろ? 大丈夫か?! 」
荒々しい荒井さんの声…
重い体に鞭打って、四つん這いの状態で、リビングにあるインターホンの受話器まで辿り着き
「荒井さん、今、開けるから、待ってて…」
そう答えて、また、四つん這いで玄関までゆっくりと進んでいった。
そして
片方ずつ足に力を入れ、立ち上がり、玄関のカギを開けると、
心配そうな荒井さんの顔が見えた途端、
荒井さんの向こう側のまぶしい光に目が眩んで、
そして体の血液がすべて下へと流れる感覚を覚え目の前が真っ暗になり、
私は、そのまま意識を失った…。