彼のヒーローヴォイス
何度も、唇が離れたり、くっついたり…

次第に頬や、額や目元にもキスを落とす…。

純一のしぐさに、戸惑っていると…


「怜、 このまま、オレのマンションに来ないか?」


「純一…?」


私の体を起こして、両頬を純一の手に包まれた。


「もう…自分の心にウソはつきたくないんだ… だから…」


「純一… ダメよ… 今、純一は、大事な時じゃない! これからどんどん声優への道を登って行くんだよ
私なんかにかまけてちゃ、ダメよ
もっと、冷静になって! 一時の気の迷いで、道を間違えちゃダメよ」


「そんなの、関係ないだろ! もうあの時の後悔はしたくないんだ!だからっ!
……。 怜…?」


瞳から、流れる涙の跡を純一の親指がなぞった…。


「怜…? なんで泣くんだ…?」


わからない…だけど…


「純一… 私、純一に…抱いてもらえるような…人間じゃないの…」


頬を包む純一の両手をゆっくりと私の手で外した。


「怜…?」


「純一… ありがとう 一瞬でも、そう思ってくれたこと 忘れないから…」


助手席のドアを開け、流れる涙を拭くこともせず
アパートへと歩いていった。
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