彼のヒーローヴォイス
見守る心…
あれから2年が経ち、私は、IT企業の中の社食の管理栄養士として働いていた。
この会社の社食は、栄養バランスが整っていて、安くておいしいと評判になり、
週に2回、一般の人たちも利用できるように解放してる。
その2回の火曜日と木曜、どちらか、必ず、荒井さんがランチをしにやってくる。
私の時間が空いていれば一緒にランチを食べるのだけど
時間が取れない時は、1人で食べているか、
時には、純一とハルトくんを連れて食べにきている。
純一を連れてくるなんんて、荒井さんは、いったいなにを考えているんだろう…。
そして、
私と一緒に食べるときは、必ずといっていいほど、
“マネージャーをやってほしい”
と、ランチを食べて、帰り際に私に一言残して帰る。
もう…いいかげん、諦めてくれないのかな…。
会議が長引いて、遅いランチになったため、ぽつんぽつんとしか人がいない社食で、
サーモンマリネ丼を食べていた。
「あら、今、お昼なの?」
後ろから、私の耳に馴染んだ声が聞こえ、その声の主は、わたしの向かいの席に座った。
チーズケーキが乗ったお皿と、コーヒーカップが乗ったトレイをテーブルに置き、
いただきます、と両手を合わせた親友マリアだった。
マリアは、その容姿と優秀さで、同じ会社の秘書課に就職した。
ネイビー色の生地に白でパイピングされたスーツを着こなし、髪は少し崩した夜会巻き。
8㎝ヒールを難なく履きこなす
まさに、社長秘書…を、目指してる…部長秘書のマリア。
部長の秘書ってだけでも、すごいのにね。
「このチーズケーキ、怜の考えたレシピでしょ? カロリー低いのに美味しいわぁ」
「そーぉ、ありがと クリームチーズの量を控えて水切りヨーグルトを加えたの
配分が、なかなか難しかったの でも、気に入ってもらえてうれしいわ」
「ね、怜、まだ荒井さんからのアプローチあるの?」
「あ、うん まぁ…ね…」
「で、どうするの?」
「断っているわよ…」
「そう…」
マリアは、淡々と質問し、淡々とチーズケーキとコーヒーを食べ終えて社食を跡にした。