彼のヒーローヴォイス

会社での私の仕事も軌道に乗って、夏の社食のイベントの副責任者に抜擢されて
残業の日々が続いていた頃だった。


私の考えたレシピが、一つ下の後輩に盗まれた。


パソコンにUSBを指したまま、少し席を離れた時に、盗まれたのだと思う。
寝ずに考えたレシピが、
なんの努力もせず、自分が考えたとプレゼンする後輩に私の怒りが爆発した!


「ちょっと待った!! そのレシピ、試作はしたの?! 材料の仕入れ先は?
コストも考えてる? 」


プレゼンの場で、私は、後輩を追い詰めた。


「おいおい、香坂くん、そこまではまだだろう?」


その場にいた課長が、後輩を庇う…。
前から私に辛くあたる課長とこの後輩が結託してるのを前から怪しいと思っていたが、
このプレゼンの場でわかった。


「いいえ! 私がプレゼンするときは、それだけ、いえそれ以上の資料とデータを用意しています。
これを見てもらえればわかります」


そう言って、パワーポイントを操作して、スクリーンに映した。


後輩が盗んだレシピに対しての、資料とデータ。
これで、後輩が私のレシピを盗んだ、ということが会議に参加している社員にわかったと思う



そして…



「いち社員である彼女の降格を願うとともに、私、香坂怜は、この事態を許すことが出来ないため
辞職させていただくことをお伝えいたします。 以上。

なお、私の考案したレシピは、今後、社食で使うことを禁止します。
使う場合は、私の弁護士を通して、ご連絡ください。」


ブチっと、パソコンとプロジェクターをつないだ線を抜き、会議室から出ていった。

よしっ! やったわ! これでスッキリした!


ずっと、課長と、後輩からの嫌がらせにガマンしていたけど、
もう、これで、なくなる。
会社で働くことは、好きだったけど… 
ここは、私の道じゃなかった…。



後悔なんて…しない。


けど…


無職になっちゃったな……。

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