彼のヒーローヴォイス
部屋を出て、待っていた純一のもとへ近づく。
「怜…?」
「純一 今夜、話せる?」
まっすぐに純一を見つめて、問いかける。
「あぁ…。」
「じゃぁ、純一の部屋行くから」
「わかった」
私を見つめる純一の瞳が、私を優しく見つめてくれた。
今日のスケジュールが全て終わり、私は純一の部屋の前にいた。
うん… よし…。
意を決して、ドアをノックする。
しばらくして、ドアが開いた。
部屋に入り、無言のまま窓際のソファに腰かけた。
「怜…「純一…」」
同時に口を開いてしまう…。
「あ、あのね、さっきマナカさんから言われたの
自分の気持ちはちゃんと、相手に伝えないとダメだ、って…
だから、だからね…私…」
「怜、待った!!」
ソファの傍に立つ純一の瞳は私を捉えて離さない。
「そこから先は、オレが言う!
怜…。
ずっと、ずっと、子供のころからお前が好きだった。
もちろん、いまも…。
お前しか、考えらんね…。
だから、もう、オレのモノになってくれ、てか、お前はオレのもんだ!!」
ソファに座る私の手をとり立ち上がらせ、純一の腕が私を包むように抱きしめられた。
「じゅ、純一…。私も、ずっとずっと好きだったの、今だって…。
でも、純一、リナと婚約するんじゃ…?」
「バーカ、そんな会社と会社の政略結婚みたいなのにオレがうん、て言うハズねぇだろ?!
オレは、怜だけを見てきた。これからも怜だけを見てく。
文句ねえよな!?」
「う、うん… もちろん…
ね、純一、お願いがあるの…」
「ん?なんだ?」
「純一の一番素敵な声で、『愛してる』って言って?」
純一を見上げ、お願いをしてみる。
「あぁ、分かった!
怜、オレの声で、ぶったおれんなよ? とびきりなのお前にやるよ。」
すっと、純一の口元が私の耳元に近づいた。
「怜… アイシテル… ずっと…アイシテル…」
ガクン…。
耳から入った声は、しびれるような甘い疼きが体じゅうを駆け巡った。
もう、立っていられず、膝から崩れ落ちそうなのを、純一が支えてくれた。
甘くて、それでいて、優しくてセクシーで…。
今まで純一が演じたどのキャラにもない、私だけのための声。言葉。
私は、世界一しあわせものだね…。
もう、涙でなにも言葉が出なかった。
「怜? ずっと我慢してきたからな、朝まで寝かさないからな…。」
そのまま抱き上げられ、ベッドへと押し倒された。
私だけの
ヒーローヴォイスに
なんども、なんども
酔わされ、溺れ
朝まで翻弄された。
Fin
2014.8.3
紫 まこ