彼のヒーローヴォイス
3月1日---------卒業式。
式典と教室での先生との別れを済ませ、卒業生は在校生に見守られ校門を並んで出ていく。
両側に1,2年生、ごちゃ混ぜになって列を作っていた。
純一の姿を目視で探してはみたけれど、人数が多い学校だから、結局見つからなかった。
仕方ない…。
校門の表側は、卒業生と在学生が、いくつかの輪になって話してたり、
男子卒業生は女子在校生から制服のボタンを強請られてたりで賑わっていたから、私は裏門から帰ることにした。
門の前でいったん停まり、回れ右をして校舎を向き、深々と頭を下げた。
ゆっくりと頭をあげていくと、目線の先にオフホワイトにブルーのロゴが入ったスニーカーが目に映る。
え…。
このスニーカー…、所々、薄汚れてはいるけど、この紐の結び方は…。
頭を上げると、腰に手を当て、仁王のように純一が立っていた。
「おう! オレにあいさつナシで帰るたぁ、いい度胸だな!」
言葉は乱暴だけど、白い歯を見せ、ニッと笑ってる。
「え…、だって、純一の姿見えなかったしぃ…」
ぼそぼそと小声で答えた。
「ま、別にいいさ、オレはちゃーんと怜がどこにいるかわかってたし?」
またしても得意げな顔の純一だ。
「ほら、コレっ」
純一が私の右手を取り、手のひらに何かを乗せた。
「え……ボタン…?」
って…卒業する男子に女子がもらう…んだよ…ね…?
「怜、今、女子がもらうものだろ?って思ったろ?」
「え? そりゃぁ、みんな思うと思うけど…。 でも…いいの? 純一、まだ2年あるんだよ、ボタンなかったらおかしくない?」
「そんなんどーにでもなるよ、よけいな心配しなくっていーよ。 それより、寮入る日っていつなんだ?」
「うん、二週間後だよ」
「そっか、あんまり日がないな…」
今まで笑っていた純一の眉が下がり、淋しそうな表情になった。
「あ、でもね、週末とか、GWとか外泊届出せば帰ってこられるんだって。スマホも禁止じゃないし、
連絡はするからね。」
「あぁ、オレもメールはする! これっきりってワケじゃ…ないからな!」
「うん…」
卒業生や在学生たちが、学校を去って行くのを見ながら純一との時間を心に刻んだ。