K
「陽世子、就職おめでとう」
皿の料理がほとんどなくなった頃に、沙雪が消えたと思ったらホールのチョコレートケーキを持って登場した。
陽世子の就職祝いであることをすっかり忘れていた俺は、背筋を伸ばす。
「陽世子、おめでとう」
ワンテンポ遅れてそう言うと、感激した陽世子は目をくりくりとさせて、ありがとうと笑った。
俺たち四人の中で、就職をするのは陽世子だけだった。
就活がどれだけ大変だったかわからないが、陽世子が履歴書を書いたり、園を訪問したりと忙しく生活していたことは知っていた。
そんななか、陽世子の就職が決まったことは、誰にとっても嬉しいことだった。
「ねえ、栄養士ってなにをやるの?」
自分のお祝いなのに、自分でケーキにナイフを入れる陽世子に声をかける。
悲しいことにこの四人のなかで家庭的要素を持っているのは彼女だけだった。
「うーん、わたしは幼稚園だから、献立立てたり作ったりかな」
「へえ、なんか子供と戯れたりしないの?子供、すきでしょ?」
「子供はだいすきだよ。そうだなー食育の授業は月に一回やるから、そのときとか、あとは行事のときかな」
「お、いいね、行事」
沙雪が食べていたケーキから顔を上げる。
「そうそう、大変だって園の人は言ってたけど」
「楽しみ?」
螢が優しく問いかける。
「うんっ」
陽世子は嬉しそうに答えた。
彼女らしい、ひだまりみたいな笑顔。
こういうとき、彼女の育ちの良さを感じる。
変に擦れていなくて、素直だ。