K


ひとしきり飲んで、喋ったあと沙雪がコテンと眠ってしまった。

彼女もまた忙しく研究する学生であるし、なんと沙雪はモデルの仕事までしている。
疲れていて当たり前だ。


時間もいい頃だったので、沙雪を陽世子に任せて男二人は小さな愛らしい部屋をあとにした。



「あーよく食ったわ」

「久しぶりにちゃんとしたもん食った気がする」

「螢、食べ物に興味ないよね」


だからこんなに細い体つきをしているのだろうか。

ちなみに俺は食べれば食べた分だけそれが肉になる。



「うまいもんは好きだよ?」

「そりゃ誰だって好きだよ」

「たこ焼きとか、好きだ」

「俺も好き」



夏の夜は、昼間の刺すような日差しがないから好きだ。


湿度でべたつく肌も、相変わらずうるさい蝉もいるけれど、太陽がないだけいい。


特に都会なんてものは四方八方コンクリートなので、昼間のうちに熱を吸収しているからやっと今の時間になって本来の夜の気温になる。



「陽世子の夫は、太りそうだよな」

「あー、あいつ上手いよな料理は」

「うん。それに優しい」

「損するタイプな」


そこが彼女のいいところでもあるのだけど。


「ああ。でも…」

「ん?」

「いや、なんでもない」




螢は不思議だ。

長年つるんでいても、本質が見えない。


近すぎるせいだろうか。


嘘をついているとか、そういうのではなく。


ふとしたときに、思う。




俺は今までに何度、螢のほんとうの声を聞いたのだろうか、と。


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