K
思えばよくこんな自分とは正反対な男と仲良くなったものだ。
見ろよ、昼間の螢も映画のワンシーンのようだと思ったけれど……今は、そうだな。
なんか、歌のPVとかに出てきそうな、幻想的な印象だ。
どこか儚げで、消えそうな。
「お前、ほんとイケメンだよな!」
面白かったので口にする。
螢は俺がそういうことを言うと少しふてくされる。
「…ねたんでんじゃねーよ」
ふい、と顔を背けてしまった。
普段は涼しい顔をして、来る者拒まず去る者追わずの男だ。
それが、少しだけだが、俺たちの前では感情を見せる。
「すねんなよ、螢〜」
「調子いいよね、香西はさ」
まあ、なんだ。
陽世子の飯はおいしかったし。
夏の夜道は気持ちがいいし。
俺の隣には気の置ける友人がいて。
空には満月。
たいしたことない人生だけど、
今のこのときって、俺は結構幸せなんじゃないかなと思っているんだ。
先のことはわからないけれど、
きっと、俺はこいつや陽世子と歳をとっていくのだろう。
そう、思っていた。
このときの俺は、そんな未来が当たり前にあるだろうということに、なんの疑いもなかったのだ。
今があまりに穏やかで、大切で。
俺は自分が何者であるかも、忘れて、ただただこのときを噛み締めるので精一杯だった。