K
はぁっ…はあっ
自然に息が上がる。
信じられない。
"彼女"と目があってしまった。
思わず後ずさりをした俺は、せっかく並べた器具につっこんでしまい、ビーカーや試験管が床に落ちる。
ガシャンガシャンとすごい音がしたが、それどころではない。
クリーンベンチの中に、なにかいた。
そのなにか、はすぐにわかった。
うずくまるようにして、座っているように見えるが、不自然に曲げられた腕や足が、無理矢理狭い機械のなかに押し込まれている。
これは、そうだ。
人間だ。
それも、この人は
「吉野、さん…?」
吉野美穂子の、見開かれた目が、こちらを見ている。
右腕は普通曲がらない方向に180度折れていて、左はもうこちらからは見えない。
脚もあまり見えないが、きっと付け根から折れ曲がっている。
そんなあり得ない格好をしているというのに表情は、穏やかでどこか寂しげだった。
それが不気味さを助長する。
蛍光灯に照らされたせいで青白い肌は、まるで実験体のようだった。
「なんだよ、これ…」
静かな部屋には、インキュベーターや冷蔵庫、クリーンベンチの低い唸りのような機械音がするだけだった。