K
1.The sound which Knocks at a door
里村研究室
遅い。
そう思って、腕時計を確認する。
もう8分前だ。
試しに窓の外を覗くと、見慣れたくせ毛が白衣を翻してくるのが見えた。
「あの、馬鹿」
ここは4階だし、急いで上がってもギリギリかアウトだ。
時間にルーズな奴だと昔からわかっているが、仕事にもそれでどうする。
開始2分前になって、手前のドアが勢いよく開いた。
颯爽と笑顔で入ってくるものだから、叱る気も起きなかった。
「わり、寝坊しちゃった」
茶色いくせ毛の男…
香西洋一は、悪びれもせずそう言った。
「そんなことだろうと思ったよ。もう始まる。お前は後ろよろしく」
「了解」
里村教授に頼まれて、うちの大学で行われる資格の試験監督を引き受けていた。
4年だが、俺たちは院に進むとだいぶ前から決まっていたのでこの時期になってもこういうことを頼まれてしまう。
たしかに就職活動はないが、いい加減卒論をやらなけらばならないし、研究室の研究もある。
香西も昨日遅くまで研究室に残っていたようだし、暇な訳ではない。
「それでは、はじめ」
俺の号令に合わせて、一斉に紙をめくる音が響いた。
手元のストップウォッチを押す。
さて、眠気との戦いの70分間が始まった。