K
大学からほど近い俺の部屋に着くと、陽世子が手慣れた様子でお茶を出してくれた。
一口飲むと、肩に入っていた力が抜ける。
「はぁ…」
「おつかれ、香西」
気を抜くと、あの光景を思い出してしまう。
おぞましく不気味な。
それでいて、どこか芸術的であった、あの。
「吉野さん、なんであんな…」
ずっと思っていた。
吉野美穂子はあのような殺され方をされるような人間ではない。
決して、あんな惨い死に方をするべき人間ではなかった。
「…そうだな」
「どうしてあんな惨いこと、できるんだろう」
「怖いよ…」
吉野美穂子は、穏やかで優しい女性だった。
里村研究室の助手で、真面目でとても頭のいい人だった。
真っ黒で綺麗な黒髪をいつも束ねて、白い白衣姿がよく似合っていた。
そして、螢のことが好きだった。
彼女が殺される理由が、わからない。
それは誰の意見もそうだった。
誰にでも優しく、人に恨まれるようなことをするとは思えない。
螢や俺は、研究室に入った頃からよくしてもらっていたし、しょっちゅう遊びにくる陽世子とも面識があった。
知っている人物が、身近でこんな死に方をするなんて。