K


「俺もそう思う。あの人を恨む人間がいるとは考えにくい。トラブルに巻き込まれている気配もなかったし」


彼女を知る人間からしたら、そう思うのが自然だ。

では、なぜ?


なぜ吉野美穂子は殺されなければならなかったのだろう。


なぜ、研究室のクリーンベンチなんかに…。



「警察の話だと、吉野さんは一度鋭利な刃物で胸や背中などを切りつけられていたそうだ。それで、その後腕や脚を折られてあの狭いクリーンベンチの中に、入れられた」


螢は淡々と話す。


あの光景を思い出して、気分が悪くなる。



「なんで、わざわざあんなところに入れたんだろう。それもあんな、目立つところに。
俺が犯人だとしたら、なるだけ遺体の発見は遅らせたいと思うけど」


「ああ。なのに、そうしたっていうことは何か意味があるんだろう」


意味。


骨を折ってまで、クリーンベンチに入れた。



「この大学に、かな」

「そうかもしれない。この大学の、誰か」



または。



「この研究室の誰かに、見つけてもらいたかった…?」






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