K

月と革靴



砂を被ってくすんだ革靴を見る。


入社して何年めかのボーナスで買ったものだ。
あの頃の自分としては、最高額の買い物だったのではないか。

丁寧に磨いたり、何度もソールを張り替えたりして大切に履いてきた。


それが、今では砂にまみれてくすんでしまっている。



空を仰ぐと、月が煌々と輝いていた。





「今日、満月か」


ぼそり、誰もいない公園で私の声は暗闇に溶けた。



きっと今日のところもだめだった。
当たり前だ、この年で再就職なんて。




今日もダメだった。




この言葉を妻にどのように言おうか。

それを考えて、この近所の公園に足を伸ばしてしまう。


初めの頃はまだ大丈夫よ、と気遣ってくれもしたが最近ではそれもない。
そう、と言ったきり私の顔を見ないのだ。


真面目な彼女のことだ、心配で気が気ではないのだろう。


子供の学費に家のローン、加えて私の母親の介護費と家計は決して余裕のあるものではない。


近年景気が回復しているとは言うが、はたしてそれは庶民の生活にまで影響しているのであろうかと殆、疑問だ。




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