K


腰掛けたベンチはまだ真昼の熱を残していてじんわりと暖かい。


9月と言えど、夜はまだ蒸し暑い。
汗ばむ喉元が苦しくて、ネクタイを緩める。



会社が倒産したのは、今年の春だった。

同僚などは、もう次の仕事に就いていた。


この時勢に、50代の男を雇ってくれる会社なんてごくごく僅かだ。
ましてや私なんて、手に職を持っているわけでもない。


仕事を30年やってきても、残るもののないも者もいるものだ。
月日とは、あまりに残酷だ。





「……くそ…っ…」




紐を解くことなく無理やり靴を脱ぐ。

右手に掴む。

手にかかるこの重み。


私の、30年。



真っ暗な地面に叩きつけた。

鈍い音がして、砂利が散る。





「はあっ…はあ…」



なんと、なんとあっけないものなのだろうか。

この重みなんて、私ひとりの人生なんて。



なんて、なんて…


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