K




「ありがとう、それじゃ私はこれで」



なんにせよ、いい加減帰らなければならない。

どんな成果のない報告でも、真実を妻に伝えなければならない。
それが一家の主人としての責任でもある。
気は重いが、私は青年から踵を返し公園の外に出ようと足を進めた。




「……っ?」



しかし、思うように足が動かない。




突如、背中に衝撃が走る。



「え…?」



体じゅうの力が抜けて、膝から崩れ落ちる。


わけがわからない。



体がどくどくといって背中に激痛が訪れた。
全身の悪寒。
信じられないくらい早く打つ鼓動。

倒れた際に口に入った砂利が、ざらざらとする。





人の近づく気配がした。
目の前のその人のスニーカー。

誰もが知る、有名なスポーツメーカーのロゴ。






「これで奥様も安心しますよ、澤村さん」




先ほどの青年だった。

なぜこの青年が私の名前を知っているのだろう。

私の妻が、なんだって…?






背中を襲う激しい痛みがなんなのか。


自分の歯が尋常ではないほどガクガクと震えている。


背を滴る熱いものを感じ、だんだんと、意識が遠のいていく。





「きみ…は…」



声、が出ない。




体の末端という末端から、闇に吸い込まれるようにして感覚が消えていく。



それから私は、目を閉じた。



< 44 / 65 >

この作品をシェア

pagetop