K
「ありがとう、それじゃ私はこれで」
なんにせよ、いい加減帰らなければならない。
どんな成果のない報告でも、真実を妻に伝えなければならない。
それが一家の主人としての責任でもある。
気は重いが、私は青年から踵を返し公園の外に出ようと足を進めた。
「……っ?」
しかし、思うように足が動かない。
突如、背中に衝撃が走る。
「え…?」
体じゅうの力が抜けて、膝から崩れ落ちる。
わけがわからない。
体がどくどくといって背中に激痛が訪れた。
全身の悪寒。
信じられないくらい早く打つ鼓動。
倒れた際に口に入った砂利が、ざらざらとする。
人の近づく気配がした。
目の前のその人のスニーカー。
誰もが知る、有名なスポーツメーカーのロゴ。
「これで奥様も安心しますよ、澤村さん」
先ほどの青年だった。
なぜこの青年が私の名前を知っているのだろう。
私の妻が、なんだって…?
背中を襲う激しい痛みがなんなのか。
自分の歯が尋常ではないほどガクガクと震えている。
背を滴る熱いものを感じ、だんだんと、意識が遠のいていく。
「きみ…は…」
声、が出ない。
体の末端という末端から、闇に吸い込まれるようにして感覚が消えていく。
それから私は、目を閉じた。