K
「松村さんは?何しに来たの。もう最終提出の準備?」
「ま、そんなとこ」
「もしかして、螢目当て?あいつたぶんそろそろ来るよ」
ぱっと顔を上げた沙雪の長い黒髪がゆれる。
艶があり、さすがモデルなだけあると思った。
「違うわよ。大体、私べつに螢くんのことは」
「あれ、違うの?」
「…昔の話よ」
そう、確か彼女は螢のことが好きだった。
大学一年のときに告白しているはずだ。
そして玉砕している。
「今でもそうなのかと思ってた。ま、でも松村さんにしては螢を選ぶなんて男の趣味がいいよね」
「うるさいわね、人が気にしていることを」
沙雪はどうも恋愛が上手ではなかった。
美人で頭もいいのに、必ず男のほうから別れを告げられている。
その男というのが毎回俺たちの想像からズレていて、よく話のネタになった。