K
「もし、香西に彼女ができてよ?」
「ああ」
「例えば、これがスイッチだとするわね」
俺の座るソファの手前のローテーブルに、沙雪が100mlビーカーを持ってきて、逆さに立てた。
カランという繊細な音が響く。
「あなたの彼女は、難病を抱えている。このままだと、一年を待たずに死んでしまう。でも、このスイッチを押すとその難病はけろっと治ってしまう。香西なら、このスイッチを押す?それとも、押さない?」
「そりゃあ、押すよ。迷わずに」
「なら、もしそのスイッチを押した瞬間に、陽世子の目が見えなくなると言ったら?」
透明なビーカーを見つめる。
日差しがガラスに反射して、綺麗な影を作っている。
非現実的な質問だ。
真面目に答える必要などない。
「そんなの、答えられるわけないだろう」
「どうして?」
「どうしてって、そりゃ…」
「たとえ話じゃない、こんなの」
「そうだけど、そんなの、答えられねえよ」
沙雪も、意地が悪い。
俺が、簡単に答えられないのをわかっていてそう問いかけているのだ。