K
陽世子の目が見えなくなるだなんて、例えだとしても想像しただけでぞっとする。
暗闇など、似合わない。
その名のように、陽だまりの中で生きるべき人間だ。
「陽世子は陽世子だ。
自分の彼女と比較するつもりはない。彼女はすごく大事だ。大事だけど、彼女と陽世子はもうまったくの別ものだ。それを比較させようって方がどうかしている」
いつだって、俺の陽世子への感情は一貫している。
守るべきもの、愛されるべき存在。
彼女を傷つけるものは、許さない。
「じゃあ、まったくの別ものって、何が違うのよ?彼女と、陽世子の。明確な存在意義の違いは?」
その声は穏やかで、責めているようなものではなかった。
尚更居心地が悪くなる。
なぜ彼女がこんな話をするのかわからなかった。
松村沙雪は、相田陽世子をとても大切にしている。
それこそ、俺や螢のように。
なぜか性格の全く違う三人だが、これだけはぶれないから不思議だ。
だから、これは沙雪が陽世子のためを考えてわざわざ俺に言いに来たことなのだろう。
ならば、尚のこと答えられるはずがなかった。
「香西、ごめん」
沈黙を破って、沙雪が呟くように言った。
声に、いつもの覇気がない。
「え?」
「嫌な聞き方だった。優しいあんたに答えられるわけないのに」
そう言って、はあとため息をつく。
白く細い指がくしゃりと前髪をかき上げて、数秒目を瞑る。
それを見て、不安にさせてしまったと小さく自分を責めた。
長い睫毛に影が落ちている。
「いや…」
「香西は悪くないわよ」
俺の言葉を遮り、すっと立つと、逆さのビーカー手に取った。
「そんなスイッチ、存在しないもの」
ぽつり、そう言うと元あった棚に静かに戻した。
「……」
「でも、この話忘れないでよね。たぶん、いつかもう一度自分に問いかけるときがくると思う」
自覚がないわけではなかった。
俺の恋愛が長続きしない原因は、俺自身にある。