K
「松…」
ガチャ
「香西っ、いるか〜?」
沙雪に謝ろう、と思ったのに、唐突に開いたドアから入ってきた人物に邪魔をされて何も言えなかった。
「お、いたいた」
「久我…」
「あっ、松村さんもいる。今日も綺麗ですね〜」
「あら、ありがとう」
沙雪はなんの抑揚もなく答えた。
久我幸治は研究室の学生ではないのにも関わらず、我が物顔で里村研究室に入ってきた。
「あーっ、涼しいね」
金髪に刈り上げ。両耳のピアス。
いかにも今どきな感じの、細身のジーンズ。
就活を既に終わらせている彼は、早々と髪をもとの色に戻した。
おしゃれについてあまり縁のない俺は、彼の格好がイケているのかどうかもわからない。
しかし、幸治の彼女が絶えないことを見る限り、イケている部類に入るのだろう。
就活中は、いかにもなさわやか青年だったというのに。
一度、内定式や懇親会はどうするのだと聞いたら、「スプレーで黒くすればいいだろ」と笑っていた。
「外、すごい暑い。もう俺びしょびしょ」
「なんだよ、なんか用か?」
「それがさ、噂。もう耳に入っているよな?」