K
「卒論、どーよ」
「んー、あー」
「お前、そろそろやばいんじゃないの」
そんなことはわかっている。
むっとしてそっぽを向く。
ソファに顔を埋めると、合皮と埃っぽい匂いがした。
「そーいうお前は、どうなの。順調?」
「ま、そこそこ」
さらりと言うからいいものだ。
別に俺だって進んでないわけじゃない。
ちょっと、あれだ。
慎重に行っているだけ、だ。
俺たちの研究分野は菌や微生物を反応させたり培養したり生成したり、それをデータをとったり解析したり、しかもその菌や微生物の種類によって反応速度や条件がいちいち違う。
要するになかなか時間を要するものだということだ。
データ収集等ははやめに行っておかなくては、満足いく研究結果には繋がらない。
わかっている。
そのせいで、昨日も遅かったのだった。
改めて眠気がやってくる。
「俺、寝るわ」
「まだ寝んのかよ」
「ん…」
まともな返事もせずに、俺は寝る体制に入った。
ごそごそと、身を丸める。
ギシ、と物置がした。
螢が立ち去ったのだろう。
「あ、お前今日のやつ忘れてないよな?」
「…ん?」
今日のやつ?
なにか、あっただろうか。
「お前ね…忘れてたろ、陽世子の集会」
「あ」
そうだ。
今日は陽世子達と飲むんだった。
「お、おー」
「それまでには起きろよな」
「はーい」
ドアの閉まる音がしたので今度こそ螢は出て行ったようだった。
埃っぽい空気を吸い込む。
そしてすぐに俺は眠りに落ちた。