K
「刑事さん、ですか?」
嫌な記憶が蘇る。
なぜ、今になって、また。
「臼井と申します。捜査の協力をしていただけないでしょうか」
そう名乗った男は、黒髪に短髪というこざっぱりした外見だった。
中肉中背で、目元がすこし犬っぽい。
美穂子の事件の時は、見かけなかった刑事だ。
「どうして…」
何度も事情聴取を受けたが、皆ベテランの刑事でもう少し年が上の人ばかりだった。
目の前の男は、彼らよりもだいぶ若く、受ける印象が違う。
「吉野さんの事件では、すべてお話ししたかと思いますが、まだ何か?」
情けないが、あまり事件のことは思い出したくなかった。
あの光景を思い出すだけで、身体の芯が冷えていくような気持ちになる。
未だに解決はされていない。
犯人の手掛かりや、証拠が見つかったという話も聞いていなかった。
「その際はご協力していただきありがとうございました。あの、失礼ですが、もしかして葛西洋一さんですか?」
「そうですが」
その話しぶりに違和感を覚える。
この刑事は俺に用があったわけではないのか?
「そうでしたか、あの事件は…変な思いをされましたね。吉野さんの事件はこちらでも現在調査中です」
そう言って臼井は渋い顔をした。
きっと捜査は難航しているのだろう。
その表情からは、俺に対する同情の念や無念の思いが見えた。